乙女色の旅
いま、死装束をお仕立てしています。
元は袷の色無地を、解き洗い張りして
人生最期のご衣装へとリメイクしています。
表地は「経帷子(きょうかたびら)」となり、
裏地として使われていた八掛は、
死出の旅路に必要な様々な小物へと
生まれ変わります。
「経帷子」は「お経が書かれた帷子」
のことで、
「帷子」は、単衣である、裏地がついていない
着物のことです。
まだ小物を作り始めたところで
手甲と足袋しか出来上がっていませんが、
衿先だった布が手甲に。
後ろ身頃だった布が足袋に。
汚れた部分はかかとの方へ、
履くと内側に入って見えなくなる所へ
持って行きました。
こちらの色無地は、
ご長男を出産された折に、ご実家のお母様が
誂えて下さったお着物だそうです。
表地には背紋が入っていましたので、
そのまま生かそうと思っています。
死後の準備をすることに対して
以前より抵抗が少なくなり、
遺影の準備をされる方はみえますが、
身につける衣装まで整えておく方は
まだまだかなり少数だと思います。
けれど、最期にお召しになるものです。
そして、それを着てけっこう過酷な
長旅をせねばなりません。
暗〜い山道をひとりぼっちで歩き、
ものすごく幅の広い川を渡ります。
渡し舟に乗るには、運賃もいります。
六文。
無賃乗船にならないように
六文銭が必要です。
長旅に備えて手甲や脚絆もマストアイテムです。
これらを生前にご準備しておくことができます。
新たな生地でお作りすることもできますし、
お着物からのリメイクもできます。
この色無地のように、たくさんの思い出が
つまったお着物なら、死出の旅路も
寂しくないかもしれませんね。
ちなみに…
こちらの死装束に使用した糸の名前は
「乙女色」。
乙女の一人旅です。
寂しくないように、つらい思いをしないように
このご衣装をお召しになるのが
ずっとずっと先であるように…
心をこめてお仕立てしています。